プロジェクト PROJECT
BAIBA
運動ってなぜ健康にいいの?“マイオカイン”の可能性
運動は、従来から糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病の有効な予防法の1つとして知られていますが、その予防効果に関わる科学的根拠の多くは未だわかっていません。
しかし、その根拠の1つとして注目されているのは、筋肉から分泌される運動誘発性物質“マイオカイン”です。その特性上、様々な疾患に対する運動効果のバイオマーカーとして、運動効果や治療効果を客観的に「視える化」できる可能性を秘めています。
様々な生理学的作用を持つBAIBAとは?
近年、マイオカインの1つとして、運動で増加する転写因子PGC1-αによって産生が制御されるβアミノイソ酪酸(β-aminoisobutyric acid: BAIBA)が同定されました(Roberts et al., Cell Metab 2014)。BAIBAは、糖尿病・脂質異常症・高血圧に関わる要因に関与する善玉マイオカインです。BAIBAには、チミンを基質とするD型BAIBAとバリンを基質とするL型BAIBAの2つの鏡像異性体(同じ成分でありながら、鏡映しの関係をもつ2つ)が存在しています。骨格筋ではD型の基質であるチミンが代謝されないため、運動により骨格筋から産生されるのはL型であり、主に生理的に機能するのもL型の可能性が考えられます(図1)。さらに、L型は比較的低い運動強度でも分泌され(Stautemas J et al., Front Physiol 2019)、加齢に関わらず骨格筋で産生されます(Kitase Y et al., Cell Rep 2018)。そのため、我々は、各種疾患リスクの高い高齢者でも実施できる運動や日常的な身体活動の効果を反映するバイオマーカーとしての活用を目指しています。
BAIBAのバイオマーカーとしての有用性を検証
従来のBAIBAのD型とL型を測定する手法では、鏡像異性体という特性から、複雑な処理が必要でした。しかし、バイオマーカーとして活用するうえでは、より多くの検体を迅速に検査する必要があります。そのため、我々のプロジェクトでは、前処理の簡略化や分析条件の最適化を実施し、質量分析装置(LC-MS/MS)を用いたより簡易的な分析手法を確立しました。現在は、この確立した分析手法を駆使して、様々な背景を持つ臨床検体の測定に着手しています。